カスハラ対策の研修や体制整備を進める企業で、こんな場面が起きることがあります。
現場スタッフが「これはカスハラではないか」と判断し、上司に相談しました。
しかし上司から返ってきた言葉は「お客様を怒らせてしまったならこちらにも問題がある」でした。
現場が正しく動こうとしても、管理職が同じ認識を持っていなければ、その取り組みは機能しません。
カスハラ対策の成否は、現場スタッフの対応スキルだけでなく、経営者・管理職が何を判断し、どう動くかによって決まります。
この記事では、カスハラ対応において経営者・管理職が担うべき役割と、よくある失敗のパターンを整理します。
この記事の監修者
カスハラ対応で管理職が担う4つの役割
役割①「会社として守る」方針を言葉と行動で示す
経営者・管理職が果たすべき最も重要な役割は、「この会社はカスハラから従業員を守る」という姿勢を、繰り返し言葉と行動で示すことです。
一度方針を公表すれば終わりではありません。
朝礼で触れる
チームミーティングで話す
実際にカスハラが起きたときに毅然と動く
そうした積み重ねによって、スタッフは「自分は守られている」と実感できます。
この実感がなければ、スタッフはカスハラが起きても「我慢するもの」として抱え込みます。
役割②現場からの相談を「受け取る」
カスハラが発生したとき、現場スタッフが最初に頼るのは直属の上司です。この相談を上司が正しく受け取れるかどうかが、その後の対応の質を決めます。
「受け取る」とは、具体的には次の3つを意味します。
- スタッフが感じた「怖さ」「消耗」を否定しない
- カスハラかどうかの判断を、スタッフ一人に委ねない
- 「どうすればよかったか」より先に「どう対応するか」を考える
「そのくらい我慢しろ」「あなたの対応にも問題があったのでは」という言葉が一度出ると、そのスタッフは次から相談しなくなります。
役割③組織としての対応を判断・指示する
一定のレベルを超えたカスハラに対して、現場スタッフが単独で「対応を打ち切る」「警察に連絡する」といった判断を下すことは難しい場合があります。こうした判断は管理職・経営層が担うべきものです。
事前に決めておくべき判断基準の例を示します。
| 状況 | 管理職がとる対応 |
|---|---|
| 対応が30分を超えて継続する | 現場に入り、対応を引き継ぐ |
| 脅迫・暴言がある | その場で対応を打ち切り、退去を求める |
| 同一顧客から繰り返し被害がある | 組織として対応方針を決め、記録を開始する |
| 身体的な接触がある | 警察への連絡を検討する |
この判断基準を事前にチームと共有しておくことで、現場は「ここまで来たら上司を呼ぶ」と迷わず動けます。
役割④被害後の従業員をフォローする
カスハラ対応が終わったあと、被害を受けたスタッフへのフォローは管理職の役割です。「お疲れ様でした」で終わらせず、以下の3点を確認します。
- 心理的な消耗・ダメージが残っていないか
- 「自分が悪かった」という自責に陥っていないか
- 次のシフトに問題なく入れる状態か
必要であれば、EAPや産業カウンセラーへの相談を案内します。被害後のフォローについては、カスハラを受けた従業員に上司はどう関わるべきかでも詳しく解説しています。
管理職がやりがちな失敗3つ
失敗①「お客様も悪くない」という判断をしてしまう
カスハラかどうかを判断するとき、「顧客にも言い分がある」「接客側にも改善点があった」という視点は必要です。
しかし、それを前面に出すことで、被害を受けたスタッフが「自分が悪かった」と感じる状況になることがあります。
カスハラの判断は、相手の言い分の妥当性と、手段・態様の相当性の2軸で行います。接客の改善点を検討することと、カスハラへの対応は分けて考える必要があります。
失敗②現場に任せきりにする
「現場のことは現場でやってほしい」という姿勢は、一見合理的に見えます。しかし、カスハラ対応は現場スタッフだけで完結しない場面があります。
長時間化した対応、繰り返す同一顧客への対応、法的対応が必要になる場面ー
これらは管理職・経営層が介入するべきケースです。「現場に任せる」という判断が、スタッフの消耗と問題の長期化を生みます。
失敗③研修を「現場スタッフだけ」に受けさせる
カスハラ研修を導入するとき、対象を現場スタッフだけに絞ってしまうことがあります。
しかし、管理職が研修を受けていなければ、現場スタッフが学んだことを「実践する環境」が整いません。
管理職向けの研修では現場対応の技術よりも、「どう相談を受け取るか」「組織としてどう判断するか」「被害後にどうフォローするか」といった内容が中心になります。
2026年10月義務化が求める管理職の役割
2026年10月施行の改正労働施策総合推進法では、事業主がカスハラ対策として講ずべき措置の一つに「被害を受けた従業員への配慮の措置」が含まれています。
この「配慮」を実際に行うのは、多くの場合、直属の上司や管理職です。義務化への対応として管理職研修を位置づけることは、制度対応としても合理的な判断です。
義務化対応の全体像については、以下の記事もあわせてご覧ください。

まとめ
この記事のポイントを整理します。
- カスハラ対策の成否は、管理職・経営層の動き方によって大きく変わる
- 管理職の4つの役割は「方針の体現」「相談の受け取り」「組織判断の実行」「被害後フォロー」
- 「お客様にも言い分がある」という判断がスタッフの自責を生む場合がある
- 現場任せにすると長時間対応・繰り返し被害が放置される
- 管理職が研修を受けていなければ、現場スタッフの学びを活かせる環境が作れない
- 義務化対応として管理職研修を位置づけることは制度的にも合理的
カスハラ対応における管理職研修や、経営層向けの体制設計支援について、お気軽にご相談ください。
参考:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(2026年2月公表)

コメント